誤訳の泉

HOME > 誤訳の泉:第11回 和訳編:「local」は「現地の」?

第11回 和訳編:「local」は「現地の」?

わたしが子どもの頃にはまだなかった(と思う)「ローカル」という語は、今ではすっかり日常に馴染んだ言葉となりました。「ローカルな」と活用語尾をつけて形容詞として活用する語法も、当たり前のように使われています。翻訳業界では、その名もずばり「ローカライズ」というカテゴリーもあります。つまり「ここ20年足らずの間にあっと言う間に浸透してきた」代表的な語のひとつがlocalです。翻訳者にとっては「何を今さら」という感覚すら覚える語ではないでしょうか。

Actions to implement these solutions are being taken on a national or local level, not at the global level. この文章を「こうした解決策を実行に移すために、国または現地レベルでの行動が見られますが、グローバルレベルではありません。」と訳す人が非常に多いのです。

なぜそれではいけないのか?は、いつものように辞書に聞いてみることとしましょう。

<日本語の定義>

広辞苑によると、「現地」とは、「1. 現在いる土地。2. ある事が現に行われている土地。現場。『―に出向く』『―報告』」と、2つの意味があります。
上の文章の場合だと、この2つのうち「2」当たりますね。話し手が「その場」にいるわけではないのですから。「ある事が現に行われている」土地、というのがこの場合の意味です。

さて、「ある事が現に行われている」となると、この前に何らかの(その地方や地域、国などに関する)文脈があって、それを受けて「現地では」と話が展開していくはずです。例えば震災などが発生した際、「○○地方において今日の△時ごろ、マグニチュード5の地震が発生しました。現地の様子をお伝えします。」とテレビなどでも言いますね。この文章の前に、具体的な地域の話が出てきて、その後に「現地〜」と続くのが本来の使い方です。

さて、冒頭に挙げたActions to implement...の前の文章を見てみると、次のようなものです。原文の下に、訳も入れておきます。 The global nature of climate change is agreed, meaning that all will be impacted and actions must include everybody based on "a common but differentiated responsibility".
気候変動の世界規模での性質に関しては、合意が得られています。誰もがその影響を受けるため、「共通だが差異ある責任」を踏まえて、全員が対策に参加しなければならないということです。

その次が冒頭の文です。つまり、「前の文には『現地』の内容がまったく述べられていない」。ここで出てくるlocalは、そういう文脈で使われている語なのだということをまず認識することが必要です。

次に、英語の定義を見てみましょう。

<英語の定義>

ジーニアスから、localの形容詞の定義を転載します。
「[通例限定]1a_その土地の[と関係のある], ある特定の地域に限られた, 地元の, 現地の《◆provincial と違って都会に対する「いなか」の意は含まない》_the _ doctor 地元の医者/_ production 現地生産/_ news ローカルニュース. bその場での, 特定の_the 〜 meaning 特定の意味. c(大都市の)近くの, 近郊の_a 〜 town 近郊の町. 2〔医学〕〈病気・痛みなどが〉局部の, 局所の_a 〜 pain [infection] 局部の痛み[感染]. 3((正式))〈考えなどが〉狭い, 偏狭な_a 〜 outlook 狭い見解. 4_各駅停車の, 普通列車の(⇔ express)_a 〜 train 普通列車. 5〔数学〕局所的な. 6[L〜]((英))(封筒・郵便ポストの指示として)同一区内[市内, 町内]配達の《◆「市外」は out-of-town》;〈電話が〉近距離の. 7〔コンピュータ〕局所の, ローカルの_a 〜 variable symbol 局所[ローカル]可変記号._【名】_1」

この1aの意味をもう一度見てみましょう。1番の最初、「その土地の」がもう出てきました。それも第一義です。これを元として、翻訳者は「ぴったりくる語」を灰色の脳細胞から探せばいいわけです。この前に、国や地方、地域に関する語がなかった場合には、指すものがないので「現地」「地元」という語が使えない、それさえわかっていればさほど難しい作業ではないはずです。

冒頭の文で言えば、例えばこんな訳文となります。
「こうした解決策を実行に移すために、国または地域を基盤とした行動が見られますが、グローバルレベルではありません。」
え!? と思われたでしょうか。簡単すぎますか。もうひとつやってみましょう。

We will support developing countries by establishing local carbon markets.
「現地の炭素市場を確立することで、私たちは発展途上国を支援していきます。」→「発展途上国各地における炭素市場を確立することで、私たちはこうした国々を支援していきます」

では今回も、最後に例文を挙げることとします。localに関して、ジーニアスに形容詞として記載されていた7つの意味のうち、現代英語ではほとんど使われない3と専門性の高い5を除いて、ほかの1、2、4、6、7について記しておきます。

  • When I went to the country on business, I knew basically nothing of the local language.
    出張でその国に行ったとき、私はそこの言葉をほとんど知らなかった。
  • Since her operation was performed under local anesthesia, she has already returned home from the hospital.
    手術が局所麻酔で行われたため、彼女はすでに退院してきている
  • Take this local train and get off at the third station.
    この各駅停車に乗って、3つ目の駅で降りてください。
  • The local postage rate for postcards is not significantly lower than letters; the difference is seen when sending internationally.
    絵葉書は、国内の郵便料金においては手紙よりもそんなに安いというわけではない。料金の違いは、国際郵便にしたときに出るものである。
  • After overcoming some initial problems, we have finally managed to set up a Local Area Network at our company.
    先日の不具合を経て、当社にもやっとLANが確立された。

ページの先頭へ戻る

翻訳サービスに関するお問い合せ先

Copyright © 2010 Dynaword Incorporated―All Rights Reserved.