誤訳の泉

HOME > 誤訳の泉:第13回 和訳編:「defend」は「守る」だけれど……

第13回 和訳編:「defend」は「守る」だけれど……

The president also defended his six-month moratorium on deepwater drilling as imperative for the safety of the region.

ニュース原稿から取った文ですが、背景を知っていても知らなくても、↓のように訳しても特に問題があるとは気付かないことが多いと思います。

「大統領はまた、沿岸地域の安全のために不可欠の措置として6カ月間の深海掘削停止を変更することはないと述べました。」

defendの「守る」を「変更することはない」と言い回しを変えてはいますが、この程度であれば翻訳者なら言い換えることはわりと多いと思います。

ではいつものように、日本語の定義から見ていきましょう。

<日本語の定義>

広辞苑で「守る」を引くと、次のようにあります。(用例は一部省略しました)
「1.うかがいみる。見定める。万葉集7「淡海の海なみかしこみと風―・り年はや経なむ漕ぐとはなしに」 2.目を離さずに見る。見詰める。見守る。源氏物語須磨「所々眺め給ふらむかしと思ひやり給ふにつけても、月の顔のみ―・られ給ふ」。 3.侵そうとするものをくいとめる。番をする。守備する。保護する。「身を―・る術」 4.大切にする。世話をする。源氏物語東屋「今はわが姫君を…明け暮れ―・りて、なでかしづく事限りなし」 5.背かないようにする。遵守する。「規則を―・る」

上の訳文では、「3.」の意味で使っているようです。「保護する」→「変更しない」と言い換えたというところでしょうか。

<英語の定義>

ジーニアスでdefendを引いてみましょう。次に目的語がありますから、他動詞の意味のみ転記しておきます。
「1[SVO]〈人などが〉〈人・場所〉を〔敵・危害などから〕防御する, 守る〔against, from〕(⇔ attack)‖〜 one's country against attack from the sea 海からの攻撃から国を守る/〜 one's reputation from [against] all criticism 名声をあらゆる批判から守る/〜 oneself from outsiders 外敵から身を守る. 2(言論などで)…を擁護する, 支持する;…を正当化する‖We can't 〜 his drinking on the job. 彼が仕事中酒を飲むのは弁護できない. 3〔法律〕…を弁護[抗弁]する. 4〔スポーツ〕〈ゴールなど〉を守る;〈タイトル〉を防衛する. 5((古))…を禁じる.」

第一義に「防衛する、守る」とあります。
しかし、ここで2の意味も見てみましょう。「…を擁護する, 支持する;…を正当化する」。そして英文に戻ってみると、"The president defended his six-month moratorium"とあります。ここでポイントはhis。この所有格があるということは、すでに(この場面よりも前に)「6カ月間の停止期間」について言葉を発しているわけです。ならばここでなぜdefendが出てきているのか。

2の意味を入れてみれば明確になります。「大統領はまた、沿岸地域の安全のために不可欠の措置として6カ月間の深海掘削停止の正当性を訴えました。」そうです、意味がきちんと通っています。辞書に載っている表現を変える必要などありません。

ここで、「正当化する」の意味も日本語で見ておきましょう。

<日本語の定義>

広辞苑で「正当化」を引くと、次のようにあります。「正当であると(認められるように)すること。「自らの行為を―する」。ならば「正当」はというと……。「正しく道理にかなっていること。「―な理由」。

つまり、ここで大統領は、自らが(これよりも前に発した)6カ月間という停止期間について、「正しく道理にかなっていることを説明した」ということになります。この観点から考えても、こちらの訳文はクリアで「ああ、こういう意味だな」とすんなりわかります。

今回は、一般的に「知っている」と思って辞書を引かずに(多少強引に)訳文を作ってしまうことがこれだけ怖いという例を挙げてみました。このとき、defendを調べるほんの数秒間の労力を惜しんだために、「正当」な訳文にならなかったのです。何度も書いてきましたが「知っている語だと思って甘く見ないこと。ちょっとでも訳文がしっくりこなければすぐに辞書を引くこと」がいかに大事かを、改めて実感することになりました。翻訳スキルというのは一朝一夕に向上するものではありません。英文読解力(特に構文の読み取り)についても、日本語のライティングも、検索スキルにも言えます。でも、「あれ!?」と思って辞書さえ引けば、回避できるミスはたくさんあるのです。

では今回も、最後に例文を挙げることとします。defendに関してジーニアスに載っていた4つの意味(5の古語は除く)それぞれについて記しておきます。

  • The wall was built to defend the country against attack from the enemy.
    その防壁は、敵の攻撃から国を守るために築かれた。
  • He has been bravely defending human rights for more than 20 years.
    彼は20年間以上、勇敢にも人権擁護活動を展開してきた。
  • The skillful lawyer defended him and won an acquittal.
    その腕利きの弁護士は彼を弁護して無罪を勝ち取った。
  • He could not defend the champion title this time and retired.
    彼は今回チャンピオンタイトルを守ることができずに引退した。

ページの先頭へ戻る

翻訳サービスに関するお問い合せ先

Copyright © 2010 Dynaword Incorporated―All Rights Reserved.